誤解錯覚
三年前に自宅トイレをウオッシュレット（自動温水尻洗い機）にした。以来毎朝贅沢な気分を満喫しているが、ここに一つ二つ思うところがあるから記してみる。
ウオッシュレットを使うようになってまず気付いたのは、便器に腰掛けた際のお尻の穴の位置が私と女房とでは微妙に違うらしいことであった。便器に小さなパイプが仕掛けてあってここから温水がお尻の穴目掛けてプゥと吹き出るのだが、私がその位置の調整をしておくと、女房にはこれが都合悪いらしく女房は女房で調整し直す。互いに面倒で仕方がない。でも、最近は、命中するかな？どうかな？と、当たり外れを楽しむ気分の方が勝ってきた。このあたりの、面倒さ・楽しさは、女房も同じだろうと、つい先日彼女に確かめてみたらこれが意外な返事である。
「わたし今までプゥの調整なんかしたことないわよ。へぇ、あれ自分でも調整できたの？」
なら、かつての私の尻の穴の葛藤はいったい何だったのだ？
たまたま、今、私は「五十肩」の激痛に苦しんでいる。かかりつけの医者にみせたら、激痛の原因は頸椎（首の骨）がへしゃげて中の神経を圧迫するためだと言った。永年の頭の重さに耐えかねて首がくたびれたからで、医者先生いわく「まあ歳ですなぁ〜」とのこと。このことを、さきの女房の返事で思い出した。“ありゃァ〜、首が歳なら尻も歳なのでは？”と。
以来、便器に腰掛けるつど、プゥの当たり具合を尻の穴で勘案するに、今朝に至ってやっと一つの哲学を得た。
すなわち、朝、起きぬけの尻の穴は意外と感覚が鋭く、プゥの当たりをしっかり自覚できるのであった。一方、昼間の尻の穴は、ぼんやりしていて、プゥの当たり場所をしかとは自覚しかねるらしいのだ。私は高血圧症なので早朝はすこぶる身体の調子が良いわけだ。かってプゥの当たりが悪く感じたのは、女房が勝手にパイプの調整をしたためではなかった。首の歳が尻の方にも及んでいた。まあ難儀なことではある。せめて尻哲学を得たことをもって善しとしようか。
◇ ◇ ◇
日照り続きで川から水の流れがなくなった。川底に雑草が生えてきた。きっと雑草の根っ子辺りにはまだ少し水があるのだろう。
池々の水位はド〜ンと落ち込んだ。私は毎日の行き帰りに水源地ダムの湖岸を車で通っているが水位が下がり過ぎてもう車の中からは水面が見えなくなった。で、一度車を止め、ゆっくり湖岸に立って水位を確かめたいが、それが出勤時間に追われて果たさない。
水位をいつも気にかけているせいか、昨日、海へ釣りに行った際、海を見ると水がいっぱいあって驚いた。たまたま満潮時に近かった。数基ある浮き桟橋がそれぞれ競いあってせり上がり、水は陸へこぼれかからんばかりである。九キロ先の島がいつもよりゆったりと水に浮かんでいた。
この日の釣果は、ツバス一匹・マアジ一匹・マダイ一匹。豆アジやキスやベラやチャリコ（マダイの子）は釣果の内に数えない。波が予報に反して少しあって、雲一つないカンカン照りで、小潮まわりが魚の食いを悪くしていた。
サシミで食べたツバスの半身と、南蛮漬にしたマメアジ以外は、すべてご近所や知人へさしあげた。
隣のお宅へは、ツバスの残り半身とベラ十匹だった。塀ごしに、女房が、先の折れた釣竿を延ばして裏戸をトントンとたたくと、若い奥さんが「ハァ〜イ」と顔を出す。この若奥さんは魚をサバクのは怖いが食うのはお好きと聞いていた。いつも、「助かるわ、助かるわ」とおっしゃると言うから、きっと魚をサバイてからさしあげるから「助かるわ」なのであろうと思っていた。しかし、さきほど女房に確かめると、これが意外な返事である。
「なに言うてんの、違うわよ、お金の節約ができて助かるのよ。きっと明日の晩、お魚の焼く匂いがするから…」
天上天下唯我独尊。
天上天下誤解錯覚。